第四幕 悲しい真実②

敦史は、砂亜羅に言うべきか迷っていた。

聞きたいことは、たくさんあった。何故、職員室の前にいたのか……とか、本当に教室に向かったのか……など。

「はぁー……」

敦史が、ため息をついて、肩をがっくりとおとした。

「おっす。どうしたんだ? ため息なんかついて。後ろから見てて影背負ってたぞ」

剛がいつの間にか隣にきていた。

「あ……剛、おはよう」

暗い雰囲気を漂わす敦史に剛が、

「何かあったのか? 俺にできることがあったら言ってくれよ」

と、言った。すると、敦史が剛に変なことを言い出した。

「なぁ……。もし、お前の彼女が吸血鬼で、本人が気付いてなかったらどうする?」

剛は驚いた。それは、敦史から見れば砂亜羅のこと、剛から見れば、妹のことなのだから。

「えっ! それ、どういうことだよ」

剛は敦史に言った。

敦史は、下を見ながら、

「実は昨日の夜、教室に砂亜羅がいなかったんだ。教室の前まで行ったら、その教室から吸血鬼が出てきたんだ」

敦史は続けた。「おかしいと思わないか? もし、砂亜羅じゃないとしても、なんで教室にいないんだ? 忘れ物を取った後なら俺とぶつかるはずなのに!」

「お、おい。落ち着けよ」

「落ち着いてられるかよ!」

「落ち着けって! まだそうと決まったわけじゃ……」

剛も言いながら、不安になってきた。

その頃、砂亜羅たちの所でも、

「やっぱりこの学校おかしいって…」

「やっぱり? 私もそう思う」

と、話し始めていた。

「本当、不思議よね」

飛鳥が言った。砂亜羅も、

「うん。昼間は全然いつもと変わらないのにね」

と、同意している。

昼休みに砂亜羅たちは、学校の入り口近くでフェンスに寄りかかってそんな話をしていた。

「よぉ。砂亜羅に飛鳥ちゃん」

いきなりフェンスの向こう側から、剛と敦史が話しかけてきた。

砂亜羅たちはびっくりして振り向いた。

「なんだぁ、お兄ちゃん達か。もう、びっくりさせないでよ」

と、砂亜羅が言うと、

「本当。こんな時間に学校サボって何やってるんですか?」

と、飛鳥も厳しい一言を言った。

「あ、ちょっとさ……。砂亜羅に聞きたいことがあって……」

敦史が、顔をのぞかせて言う。

砂亜羅と飛鳥は、顔を見合わせ、わけのわからない様な顔をした。

「何?」

気を取り直して砂亜羅が言った。

「あっ、いや、その……や、やっぱり後で話すから!」

と、敦史が急に走り去った。

「あっ! おい、敦史! ……悪い、またな!」

そう言って走り去って行った剛と敦史を砂亜羅と飛鳥は、ただ唖然として見送った。

「何だったんだろうね」

立ち尽くしたままの飛鳥が言った。

「後で話すって言ってたから……ま、いっか」

そう言いながら砂亜羅たちは教室に戻っていった。

放課後、砂亜羅が家に帰ると、敦史の靴があった。

砂亜羅は、階段を上がり剛の部屋のドアをノックした。

「お兄ちゃん、入るよ」

そう言って、砂亜羅は部屋の中に入った。

「あ……、お帰り」

どこか重苦しい雰囲気の漂う部屋で二人は言った。

「ねぇ、昼間言ってたのって何?」

砂亜羅が座った。すると、ドキッとして敦史は下を向いた。

剛が、砂亜羅に向かって、

砂亜羅…………お前、もしかしたら吸血鬼かもしれない」

と、言った。

「はぁ? 何それ」

と、冗談じみた声で砂亜羅が返す。身を乗り出して、顔を覗き込む。剛の顔は、真剣な顔だった。

「えっ? や、やだなぁ、本気で言ってるの?」

砂亜羅は、最近の途切れた記憶を胸に半信半疑になってきた。

敦史は、昨日の学校でのことを話した。

砂亜羅を追ってすぐに走り出したこと、そこで吸血鬼に会ったこと、教室に居るはずなのに居なかったこと、など起きたことの全てを。

「う……そ……。じゃぁあの時、職員室の前にいたことも、事務の先生も、教頭先生も……。全部、私が殺したって言うの?」

「あぁ……たぶん」

「嘘……でしょ? 何でそんなこと言うの?」

泣き出しそうな砂亜羅に敦史が手を近づけると、「やだ!」

と、手を払い除けて、部屋を走り出て行った。自分の部屋に入って内側からドアを抑えた。

砂亜羅! 聞いてくれ!」

部屋の前で、敦史が言った。

「俺だって信じたくない! だけど、砂亜羅が教室に行ったと言うなら、お前は消えたことになる。……どう考えても、あの距離と場所からじゃ、俺に会わないわけないんだ」

たかが板一枚の距離でも、返事はなかった。

砂亜羅は、頭を抱えて座り込み、ただその悲しみと敦史にした八つ当たりに、とめどなく涙を流していた。

——本当は、わかっていたのかもしれない。心の奥の方で……。だって、ほら、背中に出てきた痣も薄黒く、そして今にも翼が生えて飛んでいきそうになるんだもの——