第五幕 進化

しばらくして、綾子が夕飯を作り終えた。

「あら、敦史君。良かったら一緒に夕飯どう?」

綾子の言葉に剛が、

「そうだよ。少し落ち着こう。俺達が落ち込んでもしょうがないだろう」

と、敦史の肩に手を置いた。

「あぁ。そう……だよな。俺達がしっかりしなきゃダメだよな」

「そうそう」

そう言いながら、食卓のある居間に敦史を押し入れた。

「あら? 砂亜羅は一緒じゃなかったの?」

と、綾子が何げなく言った。

「お、俺が見てくる」

あたふたと居間を出て行く剛を見て、綾子は首をかしげた。

砂亜羅。夕飯できてるけど、どうする?」

剛がドアに耳を近づけて聞いた。

「いらない……」

と、泣きはらした声で砂亜羅が言った。

「……わかった」

剛はそう言うと、居間へ戻る。

「どうだった?」

敦史が、心配そうに言った。

砂亜羅、いらないってさ」

「そう。どうしたのかしら」

「……」

三人は、夕飯を食べ始めた。

敦史が帰って、月は高く上っていた。皆が寝ている時間に、剛は眠れなかった。

でも、それは砂亜羅も同じことである。

砂亜羅の部屋のドアが開く音が聞こえ、剛は顔を覗かせて引き止めた。

「あ、お兄ちゃん」

砂亜羅の瞼は泣いたせいでぽってりとしていたが、もう泣いてはいなかった。

「だいぶ、落ち着いてきたみたいだな……」

「うん、ごめんね。桜田君にも謝らなくちゃ」

そんな事を言いながら、舌をだして笑った。

「俺さ、ちょっと考えてみたんだけど……いいか?」

「えっ? う、うん」

剛はベッドに座って砂亜羅にクッションを渡した。

「実はさ、敦史とも話してたんだ。お前が吸血鬼になるのは、決まって夜だ。だけど、なんとかすれば、助かるかもしれない」

「うん。でも、どうやって?」

と、砂亜羅は妙に落ち着いていた。

「なんか、すげぇ変わりようだな」

剛が不思議そうに見つめる。

「う、うん。……たぶんね、気付いてたのかもしれない。ただ、現実離れしてるから、認めたくなかったのよ」

「気付いてた?」

「まぁ、この前もそうだったけど、最近、記憶が途切れたりすることがあったから」

「そうか……」

剛の心配そうな視線を、砂亜羅は微笑んで返した。

次の日の朝早くに敦史が家を訪れた。

「あ、おはよう。昨日はごめんね」

「おはよう。もう平気なのか? なんだか雰囲気が——」

「えへへ。ちょっと八つ当たりしちゃった。もう平気だよ、ごめんね」

そんな会話の横で、剛が靴紐を締めて立ち上がった。

「なんとかして元に戻す方法を考えてみようと思うんだけど……」

剛の言葉に敦史が頷いた。

敦史は砂亜羅に、

砂亜羅。飛鳥ちゃんには言ったのか?」

と言うと、砂亜羅は首を横に振った。

「どうしよう。……言うべきだとは思うけど——」

うつむいて砂亜羅は黙ってしまった。

敦史は、砂亜羅の頭をなでて、「好きなだけ考えろよ」

と、言った。

砂亜羅は顔を上げて、「決心ついたら話す」

と、言った。