第九幕 再びの出発

砂亜羅、入るぞ」

次の日の朝、敦史が様子を見に砂亜羅の部屋を訪れた。

すっきりとしたフローリングの床に白い壁、片付いた机、そして、クッションに顔をうずめ、ベッドの上で座り込んでいる砂亜羅がいた。

砂亜羅……」

敦史が砂亜羅の隣に座って、砂亜羅を抱き寄せた。

砂亜羅、落ち着いて聞いてくれ。……剛が消えたんだ」

「えっ?」

泣き疲れていた砂亜羅もびっくりして顔を上げた。

「どういうこと?」

「わからない。だけど、いなくなった事は事実なんだ」

敦史は続けた。「近くは探したんだ。でも、いなくて……」

砂亜羅は、そう言って頭を抱えた敦史の横顔を見つめていた。

日曜日、砂亜羅たち三人は、「気晴らしにどこか行こう。剛は、どっかで生きてるよ」

と、言う、敦史の声に集まった。

飛鳥との待ち合わせ場所まで、砂亜羅と敦史は一緒に行った。

砂亜羅は、飛鳥に心配そうに見つめられ、「お兄ちゃんは生きてるよ。だから、今日は楽しもうね」

と、飛鳥に笑いかけてみるのだった。

飛鳥も少しほっとして、微笑しながら、

「うん、きっとね」

と、言ったのだった。

「どこ行こうか」

「暑いから涼しいとこがいいな」

その意見には、大賛成! 夏は暑い。と、いう事で砂亜羅たちは水族館に来た。

飛鳥は、気を利かせてかは知らないが、中学校時代の友達を見つけると、

「お二人でごゆっくり」

と、行ってしまった。

「うわぁ。ねえ見て、桜田君。かわいいよー」

砂亜羅と敦史は、しばらく恋人らしい事をしていなかったから、楽しくて仕方なかった。

しばらくして、飛鳥が戻ってくる。

「風上、お友達はもう良かったの?」

「うん、平気。それより、そっちは楽しかったの? 久しぶりでしょ?」

二人は赤面した。お昼時の水族館は割と空いていて、涼しかった。

「あー楽しかった!」

砂亜羅が帰り道の途中、背伸びをしながら言った。

「本当、超楽しかった!」

砂亜羅たちを少し後ろから見ていた敦史は、寂しさを感じて、ため息をついた。

「どうしたの? 桜田君。疲れちゃった?」

砂亜羅が後ろを振り返って言った。

「いや。そうじゃないんだけど。やっぱりさ、いつもは剛がいたなぁって……」

敦史が切なそうに言った。

「あ……」

砂亜羅も寂しそうな顔をしたが、「あーあ、まったく! どこで何やってんのかしら! 生きてんだったら帰ってきなさいよね!」

と、できるだけ明るい声を出した。

「あ、そうだ。砂亜羅ちゃん、桜田君」

飛鳥が少し前に出て振り向いた。

「私たちでもっと色々やってみようよ!」

「えっ?」

砂亜羅と敦史は声を揃えて飛鳥を見た後、顔を見合わせた。

「さぁ、早く帰って考え直してみよう!」

飛鳥は、拳をぎゅっと握って、二人に提案した。