偶然の再会は、時に運命をも決めてしまうものだったりする。

そんな偶然の再会をする友達と、佐原(さはら)花音(かのん)は、十九歳の夏を迎えた。

夏休みは女の子の最高のバカンス……とまではいかないが、ドラマにも多い恋の季節である。

しかし、花音には全く意味がない。なぜなら、そんな出会いがないからだ。

「お母さん。私のデニムのスカート知らない?」

「デニムのスカート? それなら、下のソファーのところに畳んであるわよ」

花音の問いかけに、母は答えながらベランダで洗濯物を干していた。

「ありがとう」

花音はそう言うと階段を駆け下りる。

今日は友達の瀬稲(せいな)(かおる)と、一緒に買い物に行く予定。なのに寝坊してしまったものだから、大慌てで準備をしているところだったりする。リビングのソファーからスカートを見つけてひったくると、そのまま洗面所へ向かい、歯ブラシを口に突っ込んだままスカートに履き替える。横目でちらちらと時計を見ては、その手を早めた。

「行ってきます!」

花音は、そう言って、家を飛び出して行った。

「どうしよう! あと五分しかないよぉ。このまま走れば間に合うかなぁ」

焦る気持ちで走り続ける花音は、待ち合わせ場所に急いだ。

待ち合わせ場所で、薫が時計を見ながらため息をついていた。

「花音ってば遅いなー」

軽い苛立ちを感じている薫が、腕を組んでトントンと指先で腕を叩く。

「ごめーん!」

遠くからこちらに向かって声が聞こえてきた。声のする方を見ると、花音が息を切らして走ってくる。

「遅刻の理由、寝坊でしょ」

「うっ……」

息を整えながらもうろたえる花音を見て、

「やっぱりなー。花音が遅れてくる時って、だいたいは寝坊だもん」

と肩をすくめながら言った。

「本当にごめん。何かおごるから許して」

花音の言葉に、薫の目がキラリと輝き、

——しまった!

と花音は自分の言った言葉の重大さに気が付いた。

薫の考えている事は、花音にもすぐ分かる。痩せの大食いで、なおかつ甘党の薫が言う事は決まって、

「じゃあチョコレートケーキとクレープ。それから……——」

と甘い食べ物ばっかり。

自分の言った言葉に後悔したが、花音は諦め、

「よし、わかった。行こう!」

と薫の腕を引っ張った。

連れてきたのは近場のケーキバイキング。

「さぁ、どんどん食べて。どれだけ食べても値段は変わらないから、得して帰らないとね」

そう言って花音と薫は席に案内されると、よーいスタート! とでも言わんばかりに色とりどりのケーキが並ぶショーケースへ向かった。

「薫、ちょっと取り過ぎじゃない?」

薫の腕には器用に三皿。皿には所狭しとケーキが並んでいる。いくらケーキバイキングのケーキカットが小さめとは言え、幾つあるのだろうか。

「え? まだまだ。まだ全種類取ってないよ?」

「全種類?」

「そうだよ。ケーキバイキングで全種類食べないなんて勿体無い!」

全種類制覇の勢いでとは思ってみても、大半の人はそう出来ないもの。引きつった笑いを浮かべる花音を横に、薫は有言実行を成し遂げた。

「ふう。美味しかった。もう食べられない」

薫の食べっぷりには、両隣の席の人が思わず二度見するほどだった。

店を出てから、花音たちは腹ごなしに街を歩いた。夏の風が気持ちよく肩を切り、弾む声はより一層気分を楽しい方へ導いていく。

「さあ、腹ごなしも出来たところで、買い物にでも行きますか」

薫が一歩前に出て振り向いて、花音に笑いかける。

「うん……あっ!」

——ドンッ!

「きゃ!」

その瞬間、薫の体が傾き、そのまま花音の足元に手をついて転んだ。寸でのところで手が届かなかった花音の差し出した腕が空を切る。

「すみません! 怪我はありませんか?」

一人の男が申し訳なさそうに身を屈めた。

文句を言いたげに顔を上げた薫が男の方へ体をひねった。

「——ちょっとっ! ……あれ? 甲斐(かい)……甲斐君でしょ?」

男を睨みつけた薫は、すぐにその男の面影に『甲斐』という男を思い出した。

「薫、知り合い?」

花音が聞くと、

「薫? ——あ! おまえ、もしかして瀬稲薫?」

と甲斐も驚いた様子で言った。

それから、花音は二人の関係を問い詰め……じゃなくて、聞いてみた。

「じゃあ、薫と甲斐君は幼馴染なんだ」

「まあ、そういう事になるわね」

薫は、肩をすくめながら言った。

それから、

「甲斐君、何でそんなに服が汚れてるの?」

と薫はペンキだらけの作業着を指さした。

「え? あ、実は俺、ちょっとしたデザイナーってやつでさ。今、友達に手伝ってもらってアトリエ作ってるんだ。見に来る?」

「そうなの? 行くいく!」

薫の返答に、花音も喜んで同意した。