外に出た花音は、

「薫……どうしたのかな。いつもなら絶対来るのに」

と、薫がいるはずの二階を見上げた。

「行こうか」

甲斐の言葉に、花音は頷いて歩き出した。

甲斐を大通りまで送り、別れを切り出そうとした時、

「あ……あの、花音ちゃん」

急に、緊張した声が聞こえた。

「え? 何?」

花音もつられて、少し緊張する。

「今、まだ時間ある——?」

甲斐と二人で、近くの公園へ移動した。

並んでブランコに座り、足で軽く揺らすが、甲斐は目線を下にしたまま黙っていて、ずっと緊張した空気をまとっていた。

「あ……のさ」

どこか決心のついた声で、甲斐は話し始めた。

——俺……ずっと薫のこと好きだったんだ。引っ越してからも薫のこと、忘れられなかった。だから、この前偶然再会した時、ものすごく驚いた。あんな、知らない人みたいに綺麗になってて……。——ああ、女なんだなって思ったら、どうしようもなくて……。

花音は、帰り道をゆっくり歩いていた。

特に何かあるわけじゃないのに、何度も何度も、甲斐の言葉を思い返した。

(薫はどう思ってるのかな……甲斐君の事)

などと考えていた。

(——好きな人……か……)

花音がそう思った時に、一瞬、浩の顔が浮かんで、花音は足を止めた。

「ち、違うってばっ!」

思わず声が出た花音に、

「花音ー? 何叫んでるの?」

と、二階の窓から薫が顔を覗かせた。

「か、薫! あ……あははは……」

花音は、笑ってごまかしながら、ドアに手を掛けた。

その夜は、とても長かった。後片付けといっても、思った以上に労力を使うもので、気付いたらもう夜中になっていた。

順番にシャワーを浴び、布団に入る。薫はすぐに眠ってしまったが、花音は布団に入ってもなかなか寝付けず、甲斐の薫に対する気持ち、浩のあの言葉の意味、そして、何よりも薫のことを考えていた。

(今日の薫って、やっぱりどこかおかしかった。時々ぼーっとしちゃってて)

目を閉じて心の中で呟いた花音は、理由が見当もつかず、知らず知らずのうちに眠ってしまった。

次の日、太陽の光は二人を容赦なく照らし、目覚ましは遠慮なくなり続けた。

花音はうつらうつらする意識の中で、目を閉じたまま腕を伸ばして目覚ましを探し、鷲掴みにすると、苛立った声で、

「うるさい……」

と、目覚ましの電源を切った。

それから、花音と薫は、昨日の疲れが取れるまで、ゆっくりと昼過ぎまで寝ていた。

「おはよ」

花音と薫は、午後二時過ぎにこんな会話を交わしていた。

夏の眩しい太陽の光が部屋に差し込んで、目も十分に開けられないまま、二人は朝食という名目の昼食を食べていた。

「ねえ、薫……」

「なあに?」

「甲斐君の事、どう思ってる?」

花音は、急に真面目な顔をして薫に言った。

「へ?」

(——何言ってるの? 甲斐君は花音の事が好きなんだぞ!)

「べ、別に何とも……」

言葉にした途端、急に心臓がドキドキと音を立てて、動悸のような不ぞろいな脈を打ち始める。

それでも、薫は平然と、

「突然どうしたの?」

と、付け加えた。

「いや。単純に興味があっただけだよ。薫は、甲斐君の事好きなのかなって思っただけだから」

「——っ!」

花音の言葉に、薫の顔があっという間に赤くなった。

——やっぱり私……甲斐君の事、好きになっちゃってたの?

自分の気持ちに気付いてしまった薫は、もう後に引けなくなってしまい、胸が張り裂けそうになった。

花音は一安心して、

「甲斐君の事、好きなんでしょ?」

と、優しく肩に手を置いた。

だが、薫は花音が手を置いた瞬間に、顔を勢いよく起こし、

「でも! 甲斐君は花音のことがっ! ——いっ!」

薫の頭が、身を乗り出していた花音の顎に当たる。薫の頭に衝撃が走った。が、花音が視界の端で揺れるの見て、一気に血の気が引いた。

「か、花音! ちょっと、しっかりしてよ!」

花音は、頭がくらくらしている中で、薫の声を聞いたが、そのまま気を失ってしまった。