花音の待つ部屋にノックをして入る。

「あ、お帰り……」

花音は、落ち着いた様子で言った。

「あ……た、ただいま」

ぎこちなく答えながら、浩から受け取った手紙を隠した。

薫は、花音の手を握り、

「さっきはどうしたの? 急にあんなことするなんて」

と、言った。

花音は顔を赤く染めて、

「私ね、沖田君の事が好きみたい。会ったばかりだけど、こんなにはっきりしてる。大好き。さっきは、夢の中でも出てきて、頭が混乱してたのか驚いて……。本当、悪いことしてしまったわ」

と、舌を出した。

「そうだったの……。まったく、心配したわ」

薫は、できるだけ感情を抑えて、笑った。

「沖田君、怒ってた?」

心配そうに、花音は薫に問いかけた。

薫は微笑んで、「『全然きにしてません』って伝えて下さいって。今度会った時にでも謝っておきなよ」

「そっか。よかった。あ、もうこんな時間だね。なんだかお腹空いちゃった」

と、安心した花音は起き上がって、笑った。

——そして、それから一週間、浩は姿を現さなかった。

「ねえ、本当に気にしてないって言ってくれた?」

一週間後の夜、花音は不安になって、薫に尋ねた。

薫は少し困った表情で、しばらく黙っていたが、

「来てくれるのを待ってるんじゃなくて、こっちから行ってみたらどう?」

と、ビニール袋に包まれた四角い箱を差し出した。

「何これ?」

急に渡された袋には保存容器と分かる形と、オレンジの物体らしきものが見えた。

「南瓜よ。花音が作った南瓜の煮付。さっき、夕飯で余ったでしょ? それ持って行って、誤解を解いてきなよ」

薫の提案に、花音は、

「なんか今、薫が救いの女神に見える。ありがとう!」

と言って、抱きついた。

「はいはい。わかったからさっさと行っておいで」

薫は少々呆れた様子で、花音をリビングから追い出した。

浩の家の前。花音は緊張に縛られ、玄関のインターホンの前に立っていた。

——ど……どうしよう! 勢い余って来ちゃったけど、どうやって渡せばいいの?

南瓜の煮付を片手に、花音は浩の家の前を動けなかった。

すると、突然玄関のドアが開いて、

「何やってるんですか? 家の前で」

と、浩がTシャツとスウェットのズボンで出てきた。

(ひえぇぇぇっ!)

花音は、心の中で悲鳴をあげながら、

「あ、あ、あのっ! これ、どうぞっ!」

と、保存容器の入った袋をを浩の胸元に突き渡すと、花音はあたふたと家に逃げ帰った。

浩は、胸元ので受け止めた袋の中を覗く。すると、中には小さな紙切れが、保存容器の上に乗っていた。

「何だ?」

浩は紙切れを取り出すと、二つ折りのそれを開いた。

——沖田君へ。
 花音が寂しがってるでしょ! いつもみたいに笑って遊びに来なさいよ!

あと、頼みがあるの。明日から少しの間、旅行に行くので、花音の事よろしく!

「——くっ! 相変わらず、ずうずうしい奴」

浩は口元を抑えて笑った。

——その頃、花音は、

「薫ぅっっ!」

と、薫にしがみついてばたばたと暴れていた。

「やっぱり駄目だったか……。でも、明日からは沖田君と一緒にいられるようになるよ」

薫は、にこやかに笑いながら、花音に言った。

「どういう事よ」

花音は半泣きで薫に聞いた。

「明日から旅行に行くの。急に友達に誘われちゃって。花音も一緒にって思ったんだけど、沖田君の事もあるから、留守番しててもらおうと思ってさ」

「え! ひどいっ! 私も行きたいよ!」

「だーめ。さっさとケリをつけなさい」

「そ、そんなぁ!」

薫の仕打ちに、花音は嘆いた。