エピローグ

それから五年後の春。桜の木は、切り倒されることになった。この丘に、大きな病院が建つらしい。

「なくなっちゃうんだな、この木……」

慎一郎が手で木の肌を優しく撫でた。

「……ああ」

翔とトシも、そう言いながら、桜の木に寄りかかった。

「——やっぱり寂しいよな。俺たちの思い出の場所だし……」

「ああ。俺たちのデビュー曲の初披露の場所だもんな」

トシが言った。

「しっかし、翔があの曲をライブで歌いたいって言った時は驚いたぜ。あんなに、大事にしてたのに」

「大事にしてたからだ。最初は大事だから、俺たちだけの思い出に、とか考えてたんだけど。もっとみんなに聴いてほしくなったんだ。俺が、一番愛した彼女のことを。抗えなかった無力さも、寂しさも。それ以上に愛したことを後悔しなかったことを……」

「ぶははっ! 翔、おまえくっさいセリフ!」

「わ、笑うとこかよ、そこっ!」

翔たちは三人で、桜の木から空を見上げた。

——紗桜。あれからの五年間、何度来ても、やっぱり会えなかったけど。トシと慎一郎、それに新しく見つけたドラムと、俺たちはインディーズだけどデビューすることが出来ました。
   これがもう、最後になると思います。一つだけ、この場所であなたに伝えたい……。

——あなたに会えて、俺は幸せでした……。

END
「桜咲く、あの丘で……」